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よく外科医は希少価値が上がるから大丈夫という意見を現役外科医を中心に聞きます。しかし、私はその意見に同意できません。待遇は継続して悪くなり続けると考えています。なぜそう考えるかをお話ししていきます。
市場原理に従っていない。診療報酬はほとんど変わらず利益は低下する。
外科医の数は実はすでにかなり減少しています。
外科医の数は、1996 年の 26000 人から 2016 年には 24000 人程度へと 2000人(8%)程度減少しているようです。
にもかかわらず賃金は上がっていません。希少価値はすでに上がっているはずなのです。
なぜ上がらないんだろう。。。
理由は市場原理に従ってないからです。
保険医療制度によって病院に入る収入はある程度決まっています。
市場原理が働くなら、外科医が少なくなるなら値段が上がるのに、値段が決められているため自由に値上げできないのです。
そして、材料費などの固定費はどんどん値上がりしています。国産でない医療機器や資材が多いのも影響しています。
最近ではロボット手術の適応が各科で広がっていますが、収益は通常の手術より下がり、時間もよりかかるものの方が多いです。つまりいくら需要があっても一件当たりの利益は減っていき、回転率も悪化しているのです。
赤字の手術だらけになり、やればやるだけ厳しくなる可能性も十分あります。
こうして病院の利益はどんどん減るので、外科医の収入を上げる余力はなくなるのです。
外科医以外の待遇も上げる必要がある
手術をするためには外科医以外にも麻酔科医、看護師、臨床工学士など色々な方の協力が必要です。
しかし、手術室の看護師はどんどん辞めていっています。待遇が悪いからです。
麻酔科医もどんどん医局を辞めているので、確保が難しくなっています。
外科手術は今のところは利益が出ることが多いのですが、人手不足、容量不足でそもそも数を増やせない状態になっているのです。
外科医以外の職業の待遇を上げないと、この問題は解決しないわけです。
さらに、病院に外科だけあっても医療は成り立ちません。
消化器外科なら消化器内科、呼吸器外科なら呼吸器内科、心臓血管外科なら循環器内科が必要です。
内科が赤字だと、外科が黒字だとしても内科の赤字を埋めなければならず、外科医の給料アップにはつながりません。
現に外科医のインセンティブ(出来高)制度はあるにはあるのですが、病院の赤字の穴埋めに使われ、外科医に支払われるのはほんのわずかです。
去年私のインセンティブは確か年間で2万円ほどだった気がします。月2000円もないです。。
アメリカの外科医は高給ですが、手術の値段が日本と比較にならないくらい高額ですし、半ば外科チームで1つの事業体になっているので、利益が出ればその分収入を出せるわけです。
あとは根本的問題ですが、日本全体の賃金が上がっていないので、医師の賃金を上げようということにはなりづらいです。
外科医といえども日本全体の上位数%の賃金水準になってしまうので、そこを上げていこうという機運にはどうしてもなりにくいのです。市場原理でなく、税金で上げていくことになってしまうからです。
国民の目線から見て賃金を上げないとまずい水準(日本の平均賃金以下が目安でしょうか)にならないと国が賃金上げる方向にはなりにくいでしょう。
本来、市場原理に従うなら国が貧困化しているのならばその分医療サービスは高額化するか、制限されるものです。
しかしこれが中々すすんでいません。結果的に医療関係者が安く買い叩かれ、負担がのしかかることになるわけです。
実質賃金低下の危機感がない
上記に加え、当事者の危機感がないことも理由になります。
実は医師の学会では働き方、待遇などについての発表もあります。しかし、賃金低下についての発表はほとんど見たことがありません。労働時間短縮、女性の待遇の話ばかりです。
なぜないんだろう。。とここ最近疑問に思っています。
おそらく実質賃金が低下しているという認識がない、あるいは給料高いからなんだかんだ大丈夫だろう、などという正常性バイアスが働いているのだと思います。
正常性バイアスとは目の前に危険が迫っていても、今までの日常が続くと考えて、「大丈夫」「変わらなくても良い」などと考えてしまう人間の心理のことです。
実際に東日本大震災では津波警報を発してもすぐに行動せず、逃げ遅れてしまった人が多数いました。
別の記事でも書きましたが、ウクライナ戦争以降日本でもインフレが始まっています。
医療関係者は一部を除いて賃金は上がらず、上がってもインフレに勝てている人はほとんどいません。
この状態はスタグフレーションと言って、バブル崩壊前のインフレと違い生活は苦しくなる一方なのです。
3%のインフレが15年続き、給料のベースアップがないと、なんと実質賃金は半減してしまうのです。
社会保険料も上がるので、とてつもない危機が迫っているのがわかるかと思います。
このスタグフレーションは病院経営にも影響を及ぼします。診療報酬がインフレに連動して上がらなければ、利益はどんどん減っていくのです。
現に診療報酬はインフレに対応できていません。さらに、国の借金が膨大であること、直近で日銀が金利を上げたり、国債の買い入れを減らしたことからすると、医療費を増やす方向にはなかなかいかないと思います。
無理やり医療費を増やすと、国債発行が増え、利払いが膨大になってしまうからです。
すると日本円の価値が暴落するため、スタグフレーションはより進み、結局医療関係者の収入は減ることになってしまうので、意味がないのです。
以上を考えると、実質賃金低下を防ぐのは相当な経営努力がない限り不可能だとわかります。
そうなると、今までは外科医は相対的に給料が低く、忙しいから避けられたのが、これからは給料の絶対額が厳しい状態になるから避けられるようになります。生活が困難、つまり貧困化です。
多少忙しくても頑張れる人ですら敬遠するようになってしまいます。
外科医を辞める人も続出するでしょう。生活ができないからです。
以前よりさらに外科医を取り巻く環境は悪化してしまうのです。
数字を見るとこんな状態にある可能性が十分あるのですが、今までの待遇がこのまま続くと正常性バイアスがかかっているのでしょう。
まとめ
外科医の将来に関して暗い話ばかりになってしまいました。。
実質賃金低下は外科医だけでなく、医療関係者全体の問題です。このまま改善がなければ個人で転職したり、副業したり対策せざるを得ないでしょう。
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