電気メス 物理・数学9

勉強

電気メスとは、手術のときに組織を切開するときに使う装置です。手術というと、メスを想像される方も多いと思いますが、メスを使うのは初めに表皮を切開するとき位です。電気メスやエネルギーデバイスという装置を使うことが圧倒的に多いです。

電気メスについて外科医の先生が本を書いています。かなり詳しく書いてありますので、興味がある方は読んでみてください。

ここでは物理学のうちの電磁気学が手術にも役に立っているということをお話しします。

初期研修医の方や後期研修医の方がこれを覚えると役に立つ内容を説明します。

電気になじみのない人でもできるだけわかりやすくしてあります。

テレビで見る電気メスってこうやってるんだーとうまく学校の知識とリンクできれば幸いです!

電気メスの仕組み

電気メスは、高周波電流が狭い部分に集中することによって発生する「ジュール熱」を利用しています。

電気メスの先から発生する電流は、細いメス先で高密度になり、ジュール熱が発生します。この熱で人体の切開・凝固を行います。密度が高いほど、そこにエネルギーが集中して熱が発生するのです。

そして人の体を流れる電流は、面積の広い対極板により、密度の低い状態で安全に回収されるのです。密度が低いとエネルギーが広い面積に分散されるので、火傷しにくいわけです。

なぜ人は感電しないのか?

電気メスで使われる電流は「高周波電流」です。これに人が感電しづらいから大丈夫、というのが理由です。これだとわかりづらいので詳しく説明します。

電気というのは通常交流で送電され、発電所から届きます。交流は電圧や電流の大きさや向きが一定の間隔で変化する電流のことです。この間隔、1秒あたり何回変化するかを周波数という単位で表します。

電力会社から流される電気の周波数は50kHzや60kHzですが、これ位だと人は感電してしまいます。100kHz前後が最も感電しやすいです。

ところが周波数が高くなればなるほど感電する電流大きさは大きくなっていきます。

50kHzや60kHzと比べると、電気メスで使用される300kHz(キロヘルツ:ヘルツの1000倍)近辺では1000倍の電流を流さないと感電しなくなるのです。

周波数は高いと安全なのですが、高すぎると今度は電流が物体の表面しか通らなくなります(表皮効果)。逆に皮膚を切開したりするのが難しくなるのです。

電気メスで細胞はどうなるか?

電気メスの使い方の前に、細胞が温度でどう変化するかを説明します。

細胞はタンパク質でできているので、50度を超えると壊死し、タンパク質の性質が変わります(タンパク変性)。そして細胞が脱水→乾燥し白色凝固となります。これが理想的な凝固状態となるのです。

100度では水が沸騰します。細胞は大部分は水でできているので、ほとんど気化してなくなってしまいます。

200度とかさらに高温になると、細胞が炭化します。黒色凝固とも言います。これは脆いので、出血をうまく止めることができません。簡単に取れたりしてしまいます。

電気メスの使い方

電気メスの電流の流れ方は大きく切開モードと凝固モードに分かれます。

切開モード

切開モードは電流を連続で流します。連続なのでジュール熱がたくさん発生します。そうすると細胞は気化してなくなってしまいます。このように細胞を次々に蒸発させることで切るのです。

私も良くやるミスがあります。最初の真皮を切開モードで切る時に、真皮が厚いとうまく切れない時があります。

これは真皮が厚いと、電気抵抗Rが高いから電流が流れないのです。

このとき無理矢理切ろうとすると電圧が上がり、ジュール熱が上がってしまうので周囲の皮膚が火傷してしまいます。こうなったら縫合しても壊死している細胞を寄せているだけなのでくっつきません。デブリードマン(壊死部分を取り除く)するしかなくなります。

ですので、皮膚が切れないなと思ったら普通のメスで切った方が安全です。

凝固モード

凝固モードは切開モードと違い断続した電流です。断続なので途切れ途切れです。凝固モードは細胞を白色凝固させるのが目的ですから、温度を上げすぎないように工夫しているのです。

スプレー凝固モードというのもあります。凝固モードの特殊な用法で、組織とメスの間に連続したアーク放電を起こすことで広範囲を止血する、というものです。使ったことはないですが、広範囲の止血は逆に怖い気がします。。

その他使い方のコツ

皮弁(皮膚組織を残す)ときは、電気メスの面を使って剥離すると火傷しにくいです。

電流密度が小さくなるから、一箇所に電流が集中するのを防げます。

VIO、ボール電極

止血白色凝固をしやすいようにできる電気メスがあります。それがボール電極です。先端が球状になっているので、面積が広くなっています。組織に与えるジュール熱を抑えることができるので、止血しやすくなるのです。

理想は切開モードで均一な電流を使うことです。しかし、実際に私がやると組織が焼けてしまいました。出力を低くし、水を流さないとダメです。水を流す側管があります。

もし水を流さないなら、理想的ではありませんが凝固モードにしましょう。

鑷子(せっし)つまんで焼くときも切開モード

研修医の先生が手術に入った時に、鑷子に電気メスを当ててと言われることがあります。この時は切開モードのボタンを押します。

切開モードだと安定した連続波のため均一に熱が伝わりますが、凝固モードだと組織の凝固にムラができます。不十分な凝固だったり、焼きすぎて炭化したところができたりしてしまう可能性があるのです。

ただ、多少焼きすぎても大丈夫な箇所で切開モードで焼けない場合、凝固モードにすると焼けることが多いです。なぜかはわかりませんが。。

しかし、血管が近い、など繊細な箇所で凝固モードを使うのはやめましょう。

まとめ

電気メスの仕組み

・なぜ人は感電しないのか?

・電気メスで細胞はどうなるか?

・電気メスの使い方

・その他使い方のコツ

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